BGC駐在日記

フィリピンのフォート・ボニファシオ(BGC)での生活の記録です。

ボランティアの価値

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シーザーサラダとシーフード丼


月曜日。日本は振替休日だが、フィリピンは通常営業日だ。なんとなく損した気分になるが、仕事は溜まっているので日本にいても仕事をしていた気がする。と言いつつ、午前中は 1 時間ちょっと会社を抜け出して、上司Aさんの部屋探しについていく。本当は私自身の部屋も見に行く予定だったのだが、ブローカーが同じなので、より緊急度の高いAさんの部屋を優先して見ることにした。しかし、今日の物件はどれも明らかに予算オーバー。「予算のことを考えなければいいんだがなぁ」という、見ていてもむなしい感じになっていた。

Aさんの予算に合いそうで、かつ、いいかもしれない物件が別にあるということで、午後からもまた内覧に出かける予定でいたのだが、急遽ブローカーから連絡があり、そこはもう押さえられてしまったとのこと。ちょっと期待していただけに残念だった。仕方ないので、先週金曜日に見に行った物件の中から、一番安くて、しかし中々良さそうな物件にAさんは決めたようだ。ただ、訪問時は即日入居できるような話しぶりだったのだが、実際には 10/1 の入居になるのだという。そんなわけで、Aさんは洗濯機のない現在の部屋にあと 1 週間ほど滞在することになり、つまり、あと 2 回くらいは私の部屋に洗濯をしに来るということだ。別にいいけれど。

ちょっと残業して 20 時半過ぎに退社。High Street の「Sunnies Cafe」で夕食。会社のクーラーで身体が冷えてしまっていたので、店員に頼んで屋外の席に座らせてもらう。注文したのは、シーフード丼的なものとシーザーサラダ。チャージと合わせて 502 ペソ(1,050 円)。今はアレルギーの関係で小麦を避けているので、シーザーサラダからクルトンを抜いてもらった。クルトンはとても好きだが、仕方ない。店外の席に座っているのは私だけだ。手元の端末で、インターネット上のくだらない記事に目を落としていたら、同じテーブルの向かいの席に、ふくよかな女性が座った。ガラガラなのに相席…?

ふくよかな女性は、料理を待っている私に何事か話しかけてくる。何かと思えば、寄付のお願いだ。なんでも、子供たちのために楽器を買うお金を集めているらしい。「School of Music」と書かれた専用のぽち袋を私に見せて、寄付をしてくれないかと言ってくる。寄付なあ…よく言われることだが、寄付を募る時間、その人が働いてお金を稼いで寄付する方が、現実的にはずっとお金が集まる。確かにそれでは助け合いの精神みたいなものは世の中に広がらないかもしれないが、成果の出ない理想よりは、成果の出る現実の方が良いと思う。まぁしかし、そんなことを彼女に説明しても嫌な感じになるだけだろう。さしあたり身分証明書を見せてくれと言ったら、持ってきていないという。「では私はどうやってあなたが善人だと確認すればいいのか?」と聞けば、タガログ語で答えて何を言っているか分からない。複雑なことを咄嗟に話すには、英語スキルが不足しているようだ。乞食の類かとも思ったが、身なりは普通だし、第一(私の感覚では)かける時間に見合った収入が得られる気がしない。いや、こんなに時間がかかるやり取りをするのは私くらいなのかもしれないな。「とにかく、今回は払わないけれど、身分証明書を持ってきたら次回は払うよ」と言ったら、それでも何か英語だかタガログ語だかで言っている。一生懸命だ。

そうこうしているうちに、店員が私の連れだと勘違いして、注文を取りましょうかなどと言ってくる。私は「彼女は知り合いじゃないよ」と言って断ったが、そのうち水を持ってきた。喉が渇いていたのか、ふくよかな女性は「飲んでいいか」と言う。店員が勝手に持ってきたものを、私が拒否するのも変な話なので、好きにしろとジェスチャーで伝える。すると、想像以上にごくごく飲む。だんだん、寄付を払ってしまう方が問題が早く解決しそうだと思い始めるが、せめて英会話の練習に付き合ってもらおうと「職業は何か」「ボランティアでの役割は、お金を集めることか」などと、少しでも善人かどうか確かめられそうなことを聞く。話によると、彼女は主婦で、子供がおり、夫は教師だという。目的はお金を集めることではなく、子供たちを悪いものから守ることらしい。悪いものというのは、タバコやドラッグのことだそうだ。「分かった分かった。じゃあ、100 ペソ(210 円)だけ払うよ。でも一つ条件がある。一緒に写真を撮らせてもらうよ。ブログに載せるからね。オーケー?」パシャ。

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寄付を募ってきたボランティア女性

「絶対に子供たちのために使うと約束してね。あと、身分証明書は持ち歩かないと駄目だよ」と言って別れた。随分感謝しつつ去って行った、こんなに押し問答をして 100 ペソを手に入れても割に合わないだろう。やっぱり普通に働いた方が良い…と思ったが、もしこのペースで 100 ペソを手に入れられるなら、時給 800 円くらいかもしれない。だったら寄付集めも悪くないかも。

女性と喋っている間に料理が来ていたので、すぐに食べ始める。と、足元に猫がいる。前脚をちょこんとして、シーフード丼を食べる私に「くれないの?」という表情をする。High Street では猫を頻繁に見かけるが、どの猫も人間が近付いても逃げない。この愛らしさなら、さぞかし餌ももらえるだろうと思うが、どの猫も小柄でスリムだ。かなりの熱視線を浴びながらも、無視してレタスやらエビやらを口に運ぶ。いつのまにか立ち位置を変えて、私の視界に入ろうとする猫。しかし、決してテーブルに乗ったり、私の足に触ったりはしない。行儀のいいおねだりだ。やがて根負けして、手元の端末で、BGC で猫に餌をやることが合法なのかどうかを調べていたら、いつの間にかどこかに行ってしまった。「こいつは駄目だ」と判断したのだろう。

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何かを期待する猫

猫との見えない攻防を繰り広げる中、またさっきのふくよかな女性がやってきて、またしても向かいの席に座る。しかも、今度は別の女性(若くて可愛らしい)を連れてきた。彼女は斜め向かいに座る。おいおい、なんだなんだと思ったら、新しい女性の方が School of Music の写真付き身分証明書を提示してきた。なるほど、ちゃんとしたボランティアであるということを説明に来てくれたのね。「分かりました。ありがとう。お金は子供たちのために使ってね。」と改めて言い、彼女たちはお礼を言いながら去って行った。千客万来な夜だった。